2009/11/15

トマス・フリードマン『フラット化する世界』


トマス・フリードマン『フラット化する世界』日本経済新聞社


先進国の企業は、経済のグローバル化を通じて大きな利益を上げてきた。なぜなら、利益は「安く買って、高く売る」ことで生み出されるからだ。グローバル化によって市場が世界中に広がれば、世界で一番安く資源を買い、一番高く売れる地域で製品を売ることが可能になる。「安く買って、高く売る」ようなグローバルなビジネスにとって重要なのは、世界の地域ごとにあらゆる格差が存在しているということである。

 しかしながら、グローバル化は同時に、このような格差を解消する。先進国の企業がますますグローバル化すると、先進国だけに偏っていた富が世界中に拡散する。富が拡散する結果、世界の隅々までインターネットや輸送手段などが行き渡り、情報や教育、距離の格差は徐々に解消される。つまり、格差があった世界は、徐々にフラット化する。本書は、フラット化しつつある世界を豊富な例とともに捉え、素晴らしい想像力で近未来のフラットな世界を描いている。

 フラットな世界というのは、具体的にどういうことなのだろうか。グローバル化は、共同作業のためのテクノロジーを飛躍的に成長させた。その最たるテクノロジーは、インターネットである。今やインターネットによって、世界に点在するオフィスと共同で仕事ができる。また、オフィスに行かなくても、インターネット端末さえあればどこでも仕事ができる。つまり、仕事をする人間が、アメリカにいるかニューデリーにいるかは問題でなくなる。このことは、仕事をする人間が、アメリカ人であろうとインド人であろうと、関係がなくなることを意味する。例えばいくつかのアメリカ企業は、コールセンターをインドにアウトソーシングしている。テクノロジーの発展の結果、インドとアメリカという距離の格差が消滅し、アメリカ人とインド人の共同作業を可能にしたのだ。

 フラットな世界では、仕事は2種類しかなくなる、と本書は述べる。誰にでもできる仕事と、そうでない仕事だ。そして世界がフラットになるにつれて、誰にでもできる仕事の種類は増えていく。コールセンターがインド人に代替されたように。今後は、より専門的な仕事もアウトソーシング可能になるだろう。言うまでもなく、フラットな世界における優秀な人材というのは、代替不可能な仕事ができる人間である。代替不可能な仕事ができる人間は、世界中のどこにいても自分の仕事を見つけられる。一方で、誰にでもできる仕事しかできない人間は、常に世界の誰かに仕事を取られてしまう恐怖と直面しなければならない。

 先進国に住む人は、世界がフラット化することに大きな不安を覚えるかもしれない。しかしながら、悪いことばかりではない。フラットな世界は、多くの個人に新たな希望を与える。フラットな世界における価値のある仕事というのは、誰にも真似できない独創的なアイディアにより、商品に付加価値をつけることである。逆にいえば、独創的なアイディアを持っていれば、老舗の企業であろうと新参企業であろうと、あるいは個人であろうと、イノベーションを生み出す者なら誰でも大きな成功を期待できる。フラットな世界では、個人がこれまで以上に活躍のチャンスと能力を得るのだ。

 また、ここでもう一つの不安が浮かぶ。フラットな世界では、世界に共通の文化しか価値を持たなくなるのだろうか。確かにフラットな世界では、共同作業のためのツール―インターネット、英語、インフラ―は共有されるだろう。しかしながら、地域の言語や文化が失われるわけではない。むしろそれは一層深化される。テクノロジーのおかげで、個人は故郷を離れずにビジネスの最前線で働くことができる。また国外移住者も、生まれた国の社会習慣やニュース、友人から離れずにいられる。地域のコミュニティは、テクノロジーを通じて結びつけられるのだ。コミュニティがなくならない以上は、地域に根差した仕事がなくなることもない。フラットな世界では、伝統や文化は単一化するどころか、多様性をいまだかつてなかった段階にまで深化させる。

 フラット化した世界では、世界に存在していた様々な格差―教育、国境、出自、富―は消滅する。これは個人にとって、明らかにチャンスである。教育や共同作業のためのツールは数多く存在しているために、世界中の誰もが学ぶ機会や、ビジネスの機会を得るのだ。フラットな世界において、魔法の呪文などない。そこでは貪欲に学び、イノベーションを生み出そうとする人間だけが、成功できる。問題は、あなたがどこの国の人で、どこの大学を出たかではない。あなたが世界にどんなイノベーションをもたらすことができるか、だ。本書にはそのためのヒントが、たくさん詰まっている。

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